2020年に経団連がジョブ型雇用導入の提言をおこなったこともあり、ジョブ型雇用に対する注目が高まっています。
「ジョブ型雇用が注目されているらしいけど、どういった雇用形態なの?」
「ジョブ型雇用で人材の確保がしやすくなるって本当?」
「ジョブ型雇用は、ウチの会社にも導入できるのかな?」
企業のなかには、既にジョブ型雇用を取り入れているところも登場していますが、
いったいジョブ型雇用とはどのようなものなのでしょうか?
日本ではあまり聞きなれない言葉ですが、実は海外ではごく一般的な雇用形態だといわれています。
この記事では、ジョブ型雇用の概要やメリット・デメリットについて解説します。
また、ジョブ型雇用に興味のある方は導入手順についても紹介しているので、
自社の採用課題と照らし合わせながらご覧ください。
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは、従来の終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用とは異なり、
明確化した職務に対して雇用をするプロセスのことを指します。
従来のメンバーシップ雇用は、職種や勤務地を限定せず、
総合的なスキルの高さや社風とのマッチングから、自社に適していると思われる人材を採用する手法で、まさに「日本的な考えに基づく採用」とも言えます。
一方のジョブ型雇用では、職種や勤務地をあらかじめ指定し、職務内容にマッチした人材を採用するという手法で、海外で多く見られる雇用形態になります。
2020年1月の経団連の指針などにおいて、ジョブ型雇用導入の提言がおこなわれており、既に資生堂・日立・富士通・KDDIなどの企業がジョブ型雇用の導入を決定しています。
出典:「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」
ジョブ型雇用が提言されている背景とは?
前述で経団連がジョブ型雇用を提言しているとお話しましたが、それにはどのような背景や事情があるのでしょうか?
ジョブ型雇用の導入が推奨される理由を知ることは、従来型のメンバーシップ雇用の課題の発見にもつながりますので、ぜひともポイントを押さえておきましょう。
2-1. 従来の日本型システムの限界
ジョブ型雇用が推奨される理由として、まず従来型の雇用制度、すなわち終身雇用制度の限界が挙げられます。
終身雇用制度は、もともと従業員が長い人生のスパンで安定して収入を得ることができるというメリットがありました。また、企業側にとっても、自社のことをよく知っている労働力を長期的に雇用できるというメリットがあります。
一方で、近年のグローバル化や技術開発の高速化により、商環境が激化しています。
また、国内の人口減少によるマーケット規模の縮小や海外の安い労働力の活用などにより、企業の海外進出も進んでいます。
こうした事情から、日本の長期雇用制度や年功序列での給与体系の維持が、非合理的なものとなってきています。
2-2. 社員の専門スキルを高めるため
企業が技術力を発揮し、次々とイノベーションを生み出していくためには、専門スキルの高い従業員を雇用することも重要です。
ジョブ型雇用の場合、採用した社員はメンバーシップ型雇用と違いあらかじめ規定された特定の業務に集中できるため、専門性をより高めることができます。
2-3. 人材確保のため
人材の確保の面でも、ジョブ型採用が注目されています。
メンバーシップ型雇用制度では、どちらかといえばビジネス全般や業界に関して幅広い知識を持つジェネラリストが重宝されてきました。しかし、企業間の競争の激化により、近年では専門知識の高いスペシャリストの必要性が高まっています。
特に海外企業との競争において、専門職を雇用しやすいジョブ型雇用制度のニーズが高まっています。また、IT人材などは近い将来不足することが予想されており、一層ジョブ型雇用のニーズが高まっています。
このように専門職に対して、スキルを正当に評価することで人材が集まりやすくなり、企業の人材不足緩和につながることが見込めます。
2-4. テレワークの導入が進んでいること
人事評価において成果主義の意味合いが強いジョブ型雇用では、テレワークにもマッチしています。
テレワークでは、上司が部下の働きぶりを直接的に見ることができないため、プロセス管理が難しくなります。
さらに、テレワークにすることで会議や雑務が縮小される傾向にあり、業務の成果が強く問われることになります。
このような環境下においても、成果主義を評価の判断軸に置いている分高い成果を期待できます。
つまり、特定の職務に特化して採用活動をおこなうジョブ型雇用制度がテレワークという働き方にマッチしているといえるでしょう。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
ここまでご紹介した内容からジョブ型雇用制度は、現在の多くの企業が抱える課題やニーズにマッチした雇用制度であることをイメージしていただけたでしょうか?
とはいえ、新たな制度を考察する際には、メリット・デメリットを多面的に検討しておくことも重要です。
この章では、ジョブ型雇用制度のメリット・デメリットについて解説します。
3-1. メリット
まずは、ジョブ型雇用制度のメリットを企業側・人材側についてそれぞれ紹介します。
(企業側のメリット)
・専門知識を持った社員を採用・雇用することができる
・即戦力を雇用することができる
⇒採用の際に、必要とするスキルを明確化して条件に合った人材を採用することで、即戦力を採用することができます。
(人材側のメリット)
・専門スキルを活かせる
・転勤や異動の心配がない
・専門以外の業務の負担が少なくなり、ワーク・ライフ・バランスがとりやすい
⇒人材側にとっても、限定した職務の中で専門スキルを発揮しやすいというメリットがあります。
3-2. デメリット
一方、ジョブ型雇用にもデメリットと考えられる点もあります。
(企業側のデメリット)
・業務量に応じた配置転換や職務内容の変更が難しい
・人材の入れ替わりが激しくなってしまう可能性がある
⇒ジョブ型雇用では「ジョブディスクリプション」として、職務の内容・条件・責任範囲などを規定しています。
そのため、ジョブ型雇用で規定した人材を別の部署やチームに配置転換することが難しくなります。
また、自社の状況や商環境の変化によって、必要となるスキルや職種がたびたび変わる可能性があり、
そのたびに新たな人材を雇用することになってしまう可能性もあります。
(人材側のデメリット)
・スキルが身に付いていなければ仕事がない(特に新卒)
・社内でのキャリアアップが難しい場合がある
ジョブ型雇用の場合、雇用された条件においていかに優れたスキルを発揮するかによって評価が決まります。
従って、そもそも発揮できるスキルがなければ社内で評価されることが難しく、
またスキルアップなどにより昇給される仕組みが整っていない企業では、キャリアアップが難しいという場合もあります。
ジョブ型雇用制度導入の手順
ジョブ型雇用制度を採用や人事に活用するためには、単に求人票を改訂すれば良い、というわけではありません。
きちんと手順を踏まなければ、法律上の違反が生じてしまったり、スタッフから不平不満が生じてしまったりすることがあります。
ジョブ型労働基準制度を導入する手順は以下の通りです。
- 職務内容を定義する
自社の職務内容を洗い出し、専門性が強いジョブ型雇用を導入した方が良いと思われる職務について、職務内容の定義をおこないます。
②ジョブディスクリプションを作成する
定義した職務内容に基づいてジョブディスクリプションを作成します。
「職務記述書」とも呼ばれているジョブディスクリプションは、職務内容を詳しく記述したものです。
ジョブディスクリプションには、具体的には以下の内容を記述します。
・職務名称
・目的
・職務内容
・責任
・職務の範囲
・求められるスキル・知識・資格など
③募集要項に掲載する
募集要項に、ジョブ型雇用であることとジョブディスクリプションを記載して、求人をおこないます。
この時、ジョブディスクリプションは要点をまとめた簡易的なものを掲載するのが一般的です。
④評価制度を整える
自社での評価制度を整えます。
ジョブ型雇用で採用した人材がスキルを発揮しやすく、スキルアップを目指しやすいように、評価のポイントや昇給の条件などを明確にしておくことが大切です。
⑤全スタッフにジョブ型雇用の制度・仕組みについて説明する
ジョブ型雇用で採用する人材はもちろんですが、その他のスタッフについてもジョブ型雇用の制度や仕組み、導入目的などについて説明をします。
特に、④・⑤についてはあらかじめ丁寧に説明をしないと、社員から不平不満が噴出してしまうことがあります。
そうならないためにも、全従業員にとって公平な評価制度を整え、何のためにジョブ型雇用制度を導入するのかについて丁寧に説明しましょう。
まとめ
新型コロナウイルス感染症問題によってもたらされる経済への影響は、世界恐慌以来の景気後退ともいわれており、今後企業において働き方の見直しが求められています。
ジョブ型雇用制度は、従来の終身雇用制度を始めとしたメンバーシップ採用の課題解消にもつながることから、経団連も導入を推奨するような提言をおこなっています。
近年注目を集めているジョブ型雇用制度を導入することは、企業にとって特定の分野のスペシャリストを雇用しやすく、また従業員側にとってもスキルを活かしてワーク・ライフ・バランスの整った働き方を実現することが期待されます。
ジョブ型雇用制度を導入して、流動性・専門性を高めたい企業は、ぜひ記事を参考にしてジョブ型制度導入の仕組みを整えてください。